脳性麻痺のエンジニア、本間一秀さんに聞く。障害があっても楽しめるゲームの世界

2021/06/10

ePARA代表・加藤大貴が、eスポーツやゲームに関わるさまざまな方にインタビューする不定期企画。今回は、先天性の脳性麻痺がありながらもソフトウェアエンジニアとして活躍するテクノツール株式会社の本間一秀氏と、同社取締役の島田真太郎氏にお話をうかがいました。

障害者の「できること」を広げる会社

加藤:まずは自己紹介と会社の紹介からお願いしても良いですか?

島田:テクノツールは、肢体不自由の方々向けにパソコンやスマートフォン用の入力機器の開発・輸入を主体にした会社です。創業からは26年ほどで、キーボードが使えない、マウスが使えない、スマートフォンのタッチ操作ができない方々に代替の入力機器を提供してきました。

その延長でゲーム用入力機器(コントローラーなど)の開発支援も行っています。パソコンやスマートフォン用の入力機器開発で培った技術やノウハウをそのままゲームの入力にも使えるようにするため、Flex Controllerという特別な入力機器を監修(開発は株式会社ホリ)し、去年11月から販売をしています。

これからは物を売るだけではなく、重度肢体不自由の人たちがゲームの世界に参加するためのアクションをやっていきたいと思っています。

加藤:本間さんはエンジニアとして、どのようなソフトの開発をなさっているのですか?

本間:在宅勤務のエンジニアとして、テクノツールで販売するソフトの開発・改良を行っています。例えば、視覚障害者が使う点字編集ソフトの開発改良や、Flex Controllerを視線入力で使えるようにするFCEAというソフトの開発しています。

ゲーム用インターフェイスFlex Controller

視覚障害者の人たちを救う、点字編集システム

加藤:点字編集システムとはどのようなものですか?

島田:点字編集システムは、世の中にある本や新聞・雑誌などを点字に直した「点字図書」を作るソフトです。点字図書制作は、東京・高田馬場の「日本点字図書館」が中心になって行われていますが、他にも全国各地の点字図書館があり、そこにはたくさんの点訳サークルのボランティアの方々が関わっています。

点訳ボランティアの方々が世の中の書籍などを点字データに起こし、当事者の方々は点字図書館でそのデータをもらうか、点字プリンターで印刷して読みます。その一連の流れの中で業界のスタンダードとして使われているのが、私たちが開発している点字編集システムです。

本間は、点字編集システムの開発に携わっているメンバーの中でも、テクノツールの設立直後から在籍しているメンバーで、長らく日本の点字編集システムを支えているエンジニアです。

点字編集システムの利用画面

加藤:本間さんがテクノツールに入社されたきっかけを教えてください。

本間:僕は特別支援学校に通っていたのですが、卒業後に当時東京都が開講していた障害者向けのパソコン講座で2年間学び、初級シスアド、現在のITパスポートに相当する資格も取得しました。講座修了後にテクノツールを紹介してもらい、その縁で入社しました。

入社後しばらくたってから「点字ソフトを手掛けてもらえないか」という話があり、そこからは点字編集ソフトの開発・改良が主な業務になりました。

ゲームとの出会いを経て、働くための学びへ

加藤:ゲーム遍歴のお話をうかがいたいのですが、好きなゲームの種類とかありますか?

本間:子どもの頃はシミュレーションゲームやRPGをやっていました。はじめて買ってもらったゲームはスーパーマリオブラザーズなのですが、操作的に私の反応速度では難しく、うまくプレイできなかったので弟にやってもらっていましたね。

その後は特に歴史系が好きで信長の野望とか、三国志をやっていましたね。コーエーさんのゲームをかなりたくさん持っていました。ほとんど全タイトルを持っていたんじゃないでしょうか。

ドラクエ3にもハマって、ずっとやっていて。でも、高校卒業後はもうゲームは自然とやらなくなってしまいましたね。飽きたというか。遊び尽くした感があったんです。もういいやと思って。その時期からやっぱり仕事もやってみたくて勉強が忙しくなっていったこともあり、徐々にゲームはやらなくなりました。

加藤:ゲーム好きだったけど、将来に向けて動くときに一度離れられていたのですね。勉強はどういうことを学ばれていましたか?

本間:情報処理の資格を取ろうと思って勉強を始めました。なぜ情報処理だったかというと、社会人になってからはしっかり仕事をしたいという思いが、非常に強く自分の中にあったからです。

自分に何ができるかと考えたとき、パソコンを使った仕事だったらできると思いまして。当時100万円くらいしたPC9801というパソコンを親に懇願して買ってもらい、独学でプログラムの勉強をはじめました。その後、先述のパソコン講座を受けて資格を取得、この業界に入りました。

脳性麻痺があるエンジニア、本間さんの作業中の風景

「自作ソフト」とともに戻ったゲームの世界

加藤:一度ゲームから離れて、最近またゲームの世界に戻ってこられたということで、経緯を教えてください。

本間:やっぱりテクノツールがFlex Controllerを出してくれたことですね。おかげさまで僕もまたゲームに熱が入り始めた感じです。自分で作った視線入力ソフトFCEAもあり、前より快適にプレイできるようになったので、さらに夢中になりました。

最近ではマリオカートやスマッシュブラザーズ、ドラクエ11をプレイしました。思うようにプレイできるようになったこともあり、とても楽しいです。今はモンスターハンターにハマっています。昔はプレイできなかったゲームができるようになって、とても嬉しいです。モンハンもマルチプレイでみんなと協力することができたらより楽しいだろうなと思います。

加藤:ぜひ、ePARAでやりましょう!

特別なスキルをもった1人のスペシャリストとして受け入れた

加藤:企業として障害者の方を受け入れる体制を作る際に、会社としてどういう工夫をしてきたかを島田さんにうかがってもよろしいでしょうか?

島田:テクノツールはまだ10人ぐらいしかいない小さな会社ですが、われわれにとって本間さんのような技術やスキルがある人はただただ貴重な戦力です。なので、障害者の方を迎え入れるための特別な環境を整備するみたいな発想はあんまりなくて。貴重な戦力、中心となって働いてくれる人が働きやすいようにするという当たり前のことをしているだけですね。

加藤:特別扱いではなく、当たり前の環境整備という考え方なのですね。

島田:そうです。その中で大事にしているのは、やっぱりコミュニケーションです。コロナの前は月1回事務所に来てもらって、みんなでミーティングをやっていました。しかし昨今の環境の状況で直接会う機会がなくなってしまったので、テキストと音声でコミュニケーションを増やしています。

本間:私の仕事内容自体はソフトウェアエンジニアなので、20年前からリモートワークができていました。当時はメールが主でしたね。チャットはその時は使ってなくて、メールや電話を中心でやっていました。

テクノツール社取締役・島田真太郎さん(右)と本間一秀さん

加藤:今でこそリモートワークが一般的になりつつありますが、20年以上前からそうやって生きてきた、本間さんを突き動かしてきた原動力ってありますか?

本間:一番大きい原動力は社会の一員として誰かの役に立ちたいという思いです。それが一番強かったです。もし仕事をやっていなかったら、私は福祉施設でただ過ごすしかなかったと思います。そうすると外との接点が絶たれてしまうので、それはとても嫌だなって思っていて。社会と接点をもちたかったのが、私を動かす一番強い気持ちでしたね。

取材後記:障害者が自分自身のために開発したツールが、周囲の人を楽しませ、幸せにする

本間さんが幼少時に遊ぶことのできなかったアクションゲームを、自身で開発したツールで遊べるようになったというエピソードには、インタビュアーである私もつい涙してしまいました。たとえ重い障害があっても、それを超えるためのツールがあれば一緒に遊ぶことができる。仕事もできる。そして、そのためのツールを開発することにも障害当事者として関わっている。そういった点でも大変に心を揺さぶられたのが今回のインタビューでした。

社会との接点を持ちたい、働きたい。その気持ちは人を前向きにし、素晴らしいものを構築する原動力となることを示してくれた本間さん。これからはゲームの世界でも、視線入力ツールも介して、さまざまな仲間たちと楽しい時間を過ごせることを願わずにはいられません。本間さんがこれからもゲームを楽しみながら活躍なさることを応援しています。とても前向きになれるお話をどうもありがとうございました。

取材協力:テクノツール株式会社(外部サイト)

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