やってみる男・DOマン──車いすテニスの聖地・TTC テニススクールでフラットなマインドを学ぶ!

2019/04/02

コトナルでは、パラスポーツや障害者の環境をポジティブに変えていくアクションを紹介しながら、みんなができるアクションも呼びかけている。自分ができることを、まずはやってみる。今回は、そんなアクションの1つとして、コトナル編集長が、車いすテニスの聖地TTC(公益財団法人 吉田記念テニス研修センター) に行ってきた。

DOマン始動、第一弾は車いすテニス体験!

オレの名前は、DOマン(ドゥーマン)。普段は、コトナルの編集長をしているサラリーマンだ。コトナルで呼びかけている、パラスポーツ・障害者の環境をポジティブに変えるアクションを自ら実践すべく、マスクをかぶり、なまった体にムチを打ち、立ち上がった。ちなみに、マスクをかぶっているのは、謎のヒーロー気取りをしているわけでない。照れ隠しだ。どうか理解してほしい。

今回は、TTCに車いすテニスの体験レッスンをお願いしてみところ、快く返事をいただいた。猪狩ともかさんが挑戦している車いすテニス、実際にやってみるとどうなのか? どのくらい大変なのかを身をもって体験して、お伝えしたいと思う。

DOマン:こんにちは。DOマンと申します。素顔だと照れるのでマスクです。すみません。体験中はキャラ的に、強気キャラでいかせてもらいます。すみません。

蚊口コーチ:TTCのコーチ、蚊口昌也です。よろしくお願いします(マスクで目が見えない......どこを見て話せばいいんだろう)。DOマン、テニスの経験は?

DOマン:幼少期に家族と遊んだ程度なのだ。

蚊口コーチ:了解です! では、車いすに乗る前に、まずラケットでボールを打つ感覚の練習からスタートしましょう!

蚊口コーチにラケットの握り方から教わる。
大学までバスケットボール一筋だったオレは、ラケット系の球技経験はほとんどない。

蚊口コーチ:だいぶラケットを振るのに慣れてきましたね。じゃ、今度は車いすに乗ってみましょう。車いすテニスの基本は、止まらないこと。動きながら打つイメージですからね。

DOマン:以前、パラスポーツのレーサー体験で高記録を出したこともあり、実は車いすの操作には少し自信があったのだが、ラケットを持ちながらの操作は難しい...。

蚊口コーチ:大丈夫、大丈夫。動きは悪くないですよ! 最後にラリー、いってみましょうか!

DOマン:くっ...! あと少しのところでボールに届かないと本気で悔しい...! 最近、運動不足だったせいで、動きにキレが出ないぜ...!

蚊口コーチ:はい。今日の体験は終了です! マスクを被っているから余計疲れたんじゃないですか (笑)? でも、すごくいい動きでしたよ!

車いすテニスの名門、TTCに流れるフラットなマインドとは?

およそ45分の体験レッスンが終了した後、蚊口コーチと企画主任の板谷さんに、車いすテニスのおもしろさや、車いすテニスを支えるTTCの取り組みについて聞いてみた。TTCは、国枝慎吾選手をはじめ車いすテニスのトップアスリートを育てる名門スクール。蚊口コーチは、車いすテニスの強化選手と、プロを目指す一般のジュニア選手を担当している。

蚊口コーチ:DOマン、車いすの動きはけっこう速かったですよ! でも車いすテニスって、見るのとやってみるのとで全然違いますよね?

DOマン:以前、国枝真吾選手の試合を観戦したとき、チェアワーク(車いすによるフットワーク)に驚きました。スピードが速くて、車いすを操作する音もすごかった。少し自信はあったんですけど、自分でやってみると、ぜんぜん動けませんでしたね......(笑)。

蚊口コーチ:僕も最初は全然できませんでした。でも、練習しているうちにできるようになる。届かない球に届くようになる。そういうのって、すごく楽しいですよね。

DOマン:予測しながら動いて、読みがあたってキレイに打てたときは、気持ちよかったです。それは一般のテニスとも同じですよね。

打った後はすぐにターンして後ろに進みつつ、左右どちらにも動けるようにスタンバイする。打ったらすぐ移動が基本なので、悔しがっている暇はない。

蚊口コーチ:車いすテニスは2バウンドまで許されるので、戦術がさらに広がります。動く距離が長いのも見どころ。でも、ルールの違いはそれくらいなので、車いすに乗っている人も、そうでない人も一緒にプレイできるのも魅力です。

マスクに隠れたオレの目をしっかり見ながら、熱のこもった話をしてくれた蚊口コーチ。

DOマン:そもそもTTCは、はじめて日本から車いすテニス選手をパラリンピックに送り出したんですよね。車いすはコートに傷が付くからと敬遠するスクールが多いなか「傷が付いたら直せばいい」と吉田理事長が車いすテニスのレッスンをスタートしたと聞きました。

蚊口コーチ:はい、理事長である吉田のそういうフラットな考え方が、TTCには流れています。車いすプレイヤーだからといって、特別扱いはしないんです。だから、施設のドアも自動ドアではなく手動。車いすの人でも、自分でできることは自分でお願いしています。もちろん、僕が入った後に誰かが来れば、ドアを開けて「どうぞ」と言います。でも、わざわざ開けに行ったりはしない。逆にそのくらいの方が居心地よくて、皆さんここに集まってきてくれるのかなって思います。

DOマン:確かに、ラウンジのドアもけっこう重いですよね。ところで、蚊口コーチは、車いすテニスの眞田卓選手や齋田悟司選手などのトップアスリートを指導しているんですよね?

蚊口コーチ:はい。いい経験をさせてもらっていますね。選手の指導をするときは、とにかく100%で向き合います。もう、常に本気です(笑)。でもそれは、相手が誰でも同じ。自分が100%でやっていると、選手も子どもたちも100%でやってくれます。

DOマン:常に100%。今日もその感じ、伝わってきました(笑)。

3歳児もお年寄りも車いすの人も、テニスで豊かになれる場所

DOマン:蚊口コーチには、猪狩ともかさんのレッスンを担当していただきましたけど、プロを目指す形ではない、車いすテニスを趣味として楽しむようなことも、TTCではできるんですよね?

蚊口コーチ:もちろん。ただ、車いすテニスって、けっこう難しいですよね。趣味ではじめてもなかなか上手にできないことが多いですし。でも、やっているうちにできるようになれば、自信もつくんです。できないことができるようになることが、スポーツの楽しさだと僕は思うんです。だから最低限のサポートはしますが、コートの中でも外でも、自分でできることは自分でやってもらいますよ。

DOマン:今日も「動きながら打つ」「打ちながら回る」と教えてもらって、それを試しながら、たまに成功したりすると、おもしろくて夢中になりました。

本気でのめり込んでいただけに、ミスをしたときの悔しさはひとしお。

DOマン:TTCには、一般でも、車いすテニスでも、初心者向けのクラスから選手コースまでいろいろありますが、レッスンのマニュアルがあるんですか?

蚊口コーチ:大きな柱はありますが、レッスンの内容はわりと自由で、コーチに任されています。僕も手探りでやってきました。だからコーチによっても、指導法はぜんぜん違うと思います。テニスは、3歳からお年寄りまで、一般の人も、もちろん車いすの人も、誰でもできます。TTCでテニスをはじめて、選手になって、コーチになって退職して、趣味で楽しむこともできますよ(笑)。

DOマン:すごくフラットなスタンスですよね。もしかして、健常者で車いすテニスの試合に出る方もいますか?

蚊口コーチ:以前、コーチでいました。車いすテニスのコーチをやっていたら上手くなって。TTCでも開催することがありますが、健常者でもエントリーできる大会もあります。もしかしてDOマン、狙っていますか......(笑)

DOマン:いやいや......まだ技術が追いついていないかな。でも、もっと上手くなりたいです(笑)。テニスって、車いすプレイヤーも一般のプレイヤーも一緒にできるのがいいですよね。

蚊口コーチ:健常者と車いすの選手がダブルスを組む「ニューミックス」もあります。

DOマン:いいですね! ぜひ、レッツ DO!

DOマンの学び
──特別扱いしないフラットさが、バリアフリーな空気をつくる。

今回の取材で印象的だったのが、TTCのフラットなスタンス。「車いすだから」「子どもだから」と特別扱いしないからこそ、TTCという名門スクールが生まれ成長していった。一方で、施設を過度にバリアフリー化したり、手を出し過ぎたりせず、自分でできることは自分でしてもらう。特別扱いしないスタンスが自然なコミュニケーションを生んで、居心地のよい空間をつくり出している。

本当のバリアフリーは、ハード面だけでは実現しない。誰に対してもフラットなスタンスを持つこと。それをみんなで楽しめるユニバーサルスポーツである車いすテニスの聖地、TTCが教えてくれた。健常者も、そして障害者も、みんなが少しだけ意識を変えたり、気づいたりすることで環境はポジティブに変わっていくとオレは信じている。

PROFILE

TTC テニススクール 吉田記念テニス研修センター

〒277-0812 千葉県柏市花野井936-1
TEL 04-7134-3030
https://www.tennis-ttc.or.jp

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