コーヒーを買ったら詰んだ!?──ライムスター宇多丸が1日車いす生活を体験(前編)

2019/04/19

既存の概念を覆すアーティストとして活躍するライムスター宇多丸さんに、真のバリアフリーとは何かを考えてもらうきっかけとして、1日車いす生活を体験してもらった。

自身がパーソナリティを務める番組『アフター6ジャンクション』とも連動し、番組内では、アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさん、株式会社RDS杉原行里さんをゲストに招いて、「車椅子シーンの未来と今」を放送。

普段、味わうことのない不便さをリアルに体感し、宇多丸さんは何を思ったのか? 何を感じたのか? 何を語ったのか? 車いす生活スタート!

宇多丸、スタイリッシュな車いすに興奮

今回、宇多丸さんが乗る車いす「WF01」は、杉原さんが代表を務める株式会社RDSが開発したもの。スタイリッシュなフォルムが目を引くだけでなく、それぞれの体型や趣味趣向によってパーツをカスタマイズできるという。

宇多丸さん:なにこれ!? めちゃくちゃカッコいい。光ってる!

杉原さん:光るんですよ! 男は光ってりゃカッコいいってのはありますからね(笑)。僕、映画『トロン』が好きで。そもそも車いすって車輪がついているのに地味というか、あまり触れてはいけないイメージがあるじゃないですか。それを払拭したくて。それに今ってすごく選択肢が少ないんです。車に例えると、乗用車ばかりの状況。何が本当に良いのかを比較するためにも、スポーツカー的な車いすがあってもいいんじゃないかって。カッコよさや面白さって、障害とは関係ないですから。これに乗って銀座とか六本木を移動すると、いろんな人に声をかけられますよ。

宇多丸さん:車いすがコミュニケーションの手段にもなってるんですね。そういえば、海外に比べると街中で車いすの方を見かけることが少ない気もしますが。

杉原さん:最近はおしゃれなデザインも増えてきたので、街中で見かけるキッカケは増えてきたという印象ですが、まだまだこれから変化を迎える業界だと思います。個人所有とレンタル所有という大きく分けると2つのカテゴリーがあり、スタイリング的に似ているものが多いなという印象です。電車の中で同じ服の人と遭遇したら、ちょっと気まずいじゃないですか。もっと個人所有が一般的になって、カッコいい車いすが増えてきたら、街中で見かける機会も増えると思うんですよね。

杉原さんから車いすを取り巻く現状や操作方法について説明を受ける宇多丸さん。

杉原さん:それにこれから日本は超高齢化社会に突入していきます。ということは、車いすと無縁な人の方が少なくなってくる可能性もあるわけです。

宇多丸さん:確かに、確かに。

杉原さん:だから、今のうちから車いすや街のインフラについて考えていかないといけないと思うんです。

杉原さんの会社では、これまで収集されてこなかった車いすに関するビッグデータの取得にも力を入れており、こぎやすい角度や座り心地の改善などに役立てているそう。

さて、車いすの操作方法などについて杉原さんから説明を受けた後は、さっそくヤフー社内で試乗。エントランスをぐるりと一周することに。

エントランスのあるフロアは大きな障害物がないので、スムーズに移動する宇多丸さん。しかし、段差のある場面では、車輪がうまく上れず、バランスを崩して落ちそうに。

これくらいのわずかな段差でも、車いすで上るのはひと苦労。無理に上ろうとすると倒れそうになる。

宇多丸さん:うわっ、これは怖い!

杉原さん:無理に勢いをつけるのではなく、体の重心をうまく移動させて前輪を浮かせて上ってみてください。

宇多丸さん:ようやく上がれた! いや、これは怖いわ。

杉原さんのアドバイスもあり、なんとか段差を上ることができた宇多丸さん。車いす体験初日でここまで操れる人は、なかなかいないとか。

あとは特に大きな問題もなく、そのままエレベーターに乗って1つ下の階へ。撮影がお昼時だったこともあり、エレベーター内は満室状態に。背の高い宇多丸さんにとっては、普段とは見える景色が違ったとか。

暗がりだと車いすが光っているのがよくわかる。ちなみに、この車いすは靴がカッコよく見えるように、足を置く位置が前にせり出しているのが特徴。

宇多丸さん:自分より背が高い人たちに囲まれると、こんなに圧迫感があるんだね。遅まきながら実感しました。

「あ、詰んだわ」。気軽に買った飲み物がワナだった!?

次に挑んだのは、会議室に入っての着席。ここでハードルになったのが、普段何の気なく行なっているドアの開放だった。上半身だけでドアを押す際にグッと力を入れないといけないので、普段の倍以上、時間がかかる。

なんとか会議室に入ったら、置いてあるいすをわざわざ移動させてから着席。車いすを机と並行にするためには何回か方向転換も必要だ。

無事に着席できて満足げな宇多丸さん。しかし、机の高さが車いすと合ってないので、やや窮屈そう。こうした部分にもバリアフリー的な発想が求められている。

ここでひと休憩ということで、ヤフー社内にあるカフェテリアへ。コーヒーを頼んで受け取ったところで、宇多丸さんはあることに気づく。

宇多丸さん:ん、あれ。あ、片手が使えないと動けない......。詰んだ!

車いすを動かすときには両手を使わないといけないので、キャップが付いていない飲み物を持って移動するのは困難。無理やりに動こうとすると熱いコーヒーをこぼす危険もあるので、ここではスタッフが代わりに飲み物を持つことに。どうしても無理なときは、人に頼るのも1つの手段。

宇多丸さん:ここまでは余裕な感じでいたけど、思わぬ落とし穴があったね。

タクシーに乗車するも、手間の多さに自然と口に出る「すみません」

さて、車いすの操作に慣れてきたところで、いよいよヤフー本社から『アフター6ジャンクション』のオンエアをするTBSラジオへ。

宇多丸さん:今まで温室で育ったようなものだから、ちょっとドキドキするね。

タクシーを止めてもらうと、運転手さんが登場。車いすに座ったまま乗車するために、メジャーでサイズを測る必要がある。

運転手さん:Japan Taxiの秋山です! 本日はよろしくお願いします!

宇多丸さん:よ、よろしくお願いします。

威勢の良い運転手・秋山さんの対応にたじたじの宇多丸さん。その後、秋山さんは抜群のホスピタリティで車いす専用のスロープを設置してくれる。これで車いすから降りることなく、乗車できる。

ただ、かなり大掛かりなため、乗車までの時間がかかる。このあたりの取り組みはまだはじまったばかりなので、今後より便利になっていくことが期待されている。

車いすを固定していく秋山さん。これで移動中に車いすが制御不能になる心配はなし。
車いすに乗った状態だと天井に頭が当たりそうで少し窮屈。

タクシーの乗り降りもひと苦労。運転手に手伝ってもらってようやくできるレベルだ。その大変さに宇多丸さんの口から自然と「すみません」のひと言。特に悪いことをしているわけではないのに、なんだか申し訳ない。そんな気持ちにならないくらい、もっと車いすが当たり前にある社会になっていけばいいのに......。

宇多丸さんは無事にTBSラジオに到着できるのか!? 後編に続く。

PROFILE

ライムスター宇多丸(うたまる)

日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(毎週金曜日21:00~21:55)、AbemaTV「ライムスター宇多丸の水曜The NIGHT」(毎週水曜日25:00~27:00)、TBSラジオ・プレイステーション presents 「ライムスター宇多丸とマイゲーム・マイライフ」(毎週木曜21:00〜21:30)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。現在は結成30周年記念ツアー KING OF STAGE VOL.14 「47都道府県TOUR2019」の真っ最中。RHYMESTERの「裏」ベスト、12年ぶりの第二弾『ベストバウト 2 RHYMESTER Featuring Works 2006-2018』も発売中。
http://www.rhymester.jp/

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