オシャレしたい気持ちに障害の有無は関係ない── 布施田祥子 × 猪狩ともか ファッション対談

2019/08/14

「オシャレしたい気持ちに、障害があるかどうかなんて関係ない!」そんな強い思いから、下肢装具をつけていても履けるオシャレな靴のブランド「Mana'olana(マナオラナ)」を立ち上げた布施田祥子さん。今回は、半身まひという障害を抱える布施田さんとアイドルグループ「仮面女子」として活躍する猪狩ともかさんが「オシャレ」をテーマに対談。ファッションに対する思いや工夫、そして要望を語り合った!

履きたい靴を選ぶことを諦めたくなかった!

Mana'olana(マナオラナ)を創業した布施田祥子さん(左)と仮面女子・猪狩ともかさん

猪狩さん:今日はよろしくお願いします! 実は、布施田さんのブランドについて、今回初めて知りました。足に障害がある人が下肢装具を着けても履ける靴をつくっているんですよね?

布施田さん:障害がある人向けの靴って、履きやすさだけを求めたものしか当時は売られていなかったんです。

左が一般に売られている下肢装具の対応靴。右が布施田さんのブランド「Mana'olana(マナオラナ)」の靴(サンプル)。エナメル素材で、フォーマルな場でも使いやすい

猪狩さん:いわゆる下肢装具対応の靴は、かなりシンプルで機能性重視な感じですね。

布施田さん:そうなんです。だから、あまりデザインが選べなくて、TPOに合わせた靴がないんですよ。

猪狩さん:私も車いすに乗るようになってからは、スニーカーばかり履いています。サンダルとか履きたいけど、足が出ているとケガが心配で......。「Mana'olana(マナオラナ)」の靴はかわいいデザインで履きたくなります。

布施田さん:ありがとうございます。最近、車いすの方からは、「足が冷えるからブーツが欲しい」って言われますよ。

猪狩さん:わかります! 私も足が冷えるので、春夏用のブーツ型ルームシューズが欲しいんです。でも、一般的にはニーズがないからか、売られていなくて。ところで、どうしてご自身でブランドを立ち上げようって思ったのですか?

布施田さん:私は、半身まひになる前からファッション関係の仕事をしていたんです。靴も好きで、いつも服装に合わせて選んでいたのですが、それができなくなってしまったことが嫌で。当時は100足くらい、靴を持っていたんですよ。

猪狩さん:100足! すごい!

布施田さん:仕事も接客業から庶務に変わり、自分にはあまりこの仕事内容が向いてないなとも感じていました。皆さん、とても良い方ばかりだったんですけどね。同時に、「靴をつくりたいなあ」という思いもふつふつを湧いていました。そんなとき、埼玉県が主催する女性起業家向けの「ビジネスプランコンテスト」に出会い、申し込みました。起業の知識も全くなかったので、セミナーで勉強したり、資料をつくったりして、なんとか事業を進めていったんです。

猪狩さん:勢いとタイミングがかみ合ったんですね。

布施田さん:そうなんです。諦めずに靴、作っちゃいました(笑)。猪狩さんは、何か諦めた靴とかありますか?

猪狩さん:スリッポンをかわいいと思って買ったけど、履くのが難しくて人にあげちゃいました。靴の入り口に足が全然入らなかったんです。足を動かせない人にとって、入り口はがばっと開いてくれないと!

布施田さん:わかります。私は洋服を着る時に、あまり伸縮性がないものは諦めてますね。

猪狩さん:伸縮性も大事ですよね。私、コンバースのスニーカーは、全部ゴムひもにして履いています。ゴムなら入り口がガバッと開くので、そのまま履けるんです! これ、妊婦だった友だちから教えてもらいました。おなかが大きくてかがめないときに使っていた技なんですよ。

布施田さん:あ~、なるほど! いいアイデアですね。ガバッて開くといえば、最近、私のお気に入りアイテムをガバッと開くデザインに作り替えたんです。

リメイクされた布施田さんのブーツ。ファスナーがかかとの上ギリギリまでつけられている

猪狩さん:かっこいいブーツ!

布施田さん:このブーツには、もともとファスナーがついていなかったのですが、つい先日、改造してもらいました。足首が曲がらないからずっと履けていなかったけど、やっぱり、どうしても捨てられなくて。そうしたら、靴作りを通して知り合った職人さんが直してくれたんです。後ろのほうがガバッと開いて、足をスッと入れられるようになってます。

猪狩さん:いいなあ。私は、ハイカットのスニーカーもファスナーがあったらいいのにって思います。ちなみに、このブーツは改造においくらくらいかかりましたか......? 高そう。

布施田さん:2万円くらいかな?

猪狩さん:あ~......高いかも。私、結構リーズナブル志向なんです(笑)。

布施田さん:こっちのパンプスは、妊娠中に「産後に履こう」と思って買いましたが、履けなくなってしまいました。いつかまた履きたいと思って、まだ手元に置いています。でも、諦めきれなくて、この色をベースに自分のブランドで靴をつくっちゃいました(笑)。ちなみに、猪狩さんは、ヒールの靴を履かれますか?

履けなくなったパンプスの色をベースにして作った「Mana'olana(マナオラナ)」の靴。取材当日、布施田さんも履いていた

猪狩さん:もともとあまり履いていませんでしたが、今は履けなくなりましたね。車いすだと、ヒールの部分が引っかかっちゃうんです。

布施田さん:私のブランドで作っているのはぺたんこ靴ばかりなので、よかったら試してみてくださいね(笑)。

最初から決めつけないで、試して着られなかったら諦めればいい

布施田さん:ちなみに洋服を選ぶときのこだわりはありますか?

猪狩さん:私は最近、前開きの服を好んで選ぶようになりました。例えば、前開きのスカートなら、広げて置いておいて、そこにスポンと乗っちゃえば、あとは両サイドをくるっと前にまわして留めるだけ。簡単に着替えられるんです。ワンピースも前開きなら羽織れば着られるので、めっちゃお世話になってます! 布施田さんは、伸縮性以外に服選びのこだわりってあるんですか?

布施田さん:私の場合、伸縮性よりも前に、まず普通にデザインがかわいいかどうかを見ますね。着られるかどうかは、後で判断かな。試してみてダメだったら諦めます(笑)。このトップスは後ろがボタンなのですが、ボタンを2つくらいはずして、かぶって。シャツの後ろに手を回して上に引っ張りながらボタンを留めて......と、着るのに苦労するのですが、いまだに諦めずに着ています。

猪狩さん:すごい、私だったら処分しちゃうかも......!

布施田さん:こっちは、後ろにファスナーがあるズボン。ファスナーって、両手を使って、下を引っ張りつつ上げないとうまく閉まらないですよね。私の場合、片手でも閉められないかと、試着室で四苦八苦。壁に体を押しつけてファスナーの下を固定すればなんとか閉められたので、お買い上げしました(笑)。

猪狩さん:諦めないんですね(笑)!

布施田さん:諦めないですね(笑)。さらにこれは、20年ほど前、主人に結婚前に買ってもらったジージャンです。タイトなシルエットなので一回着るとなかなか脱ぎにくいんですけど、あまり脱ぎ着しなくていいときに着ています。単純に当時より太ったから脱ぎづらいっていうのもあるんですけどね(笑)。でも捨てられない一着です。

猪狩さん:すごい......諦めない心、素晴らしいです。見習いたい。

布施田さん:とはいえ、「自分ひとりで着られるもの」というのが基本。出先のお手洗いで誰かに「脱がせて!」とも言えないですからね(笑)。ファスナーが横だとやりづらかったり、うまく脱ぎ着できずに焦るときもあるんですよ。

猪狩さん:それでもお話を聞きながら、ちょっと工夫すれば捨てなくても良かったものもあるんじゃないか、と思いました。私は全部、潔く捨ててましたね......(笑)。

布施田さん:私は執念深いんですよ(笑)。猪狩さんは、デザインはあと回しにしちゃう?

猪狩さん:いえいえ、もちろんかわいいと思ったものを買いますよ! ただ、ピチッとしたミニスカートだと、動いているうちに上にあがってしまうので、膝上くらいになるボトムスは選ばないですね。持っていたものも、全部処分しちゃいました。

布施田さん:車いすだからこその悩みですね。私は装具が見えるのが嫌なので、あまり見えないような丈のデザインを選んでます。

猪狩さん:ドラマ『パーフェクトワールド』の中でも、義足の登場人物が、階段から落ちたときに上がってしまったズボンの裾を慌てて下ろす、というシーンがあったのを思い出しました。

布施田さん:完全に隠したいというわけじゃないんだけど、あまり見せたくないと思っていたんです。でも、今は装具とマッチしたかっこよくみえるデザインの靴を作りたいという目標もあります。

YKKのファスナーがひらく、ユニバーサルファッション

今回は、ユニバーサルファッションをコンセプトにしたファスナーを開発している、YKKの岩田さんが特別ゲストとして登場。用意していただいた着脱しやすいファスナーを実際に布施田さんと猪狩さんにも試してもらった。さて、反応は......?

YKK岩田さん登場! ファスナーのサンプルに興味津々の二人

YKK岩田さん:YKKでは、ユニバーサルファッション分野向けの商品をラインアップしています。まずは2019年5月に発売された新商品の「click-TRAK®(クリックトラック)」というファスナーを試してみてください。こちらは留め具の部分がスナップボタンのようになっている新しいファスナーです。

二人とも、片手で「click-TRAK®」の使用感をチェック

猪狩さん:片手だと、こちらのほうが使いやすかったりしますか?

布施田さん:スナップ部分をパチンと留めるような感じだから、普通のものに比べたらイライラはないですね。慣れたら楽だと思います。

「click-TRAK®」を使ったジャケットでも挑戦。メンズ服なので、サイズ感が合わずにやや苦戦......?

猪狩さん:通常のファスナーは、片手だと差し込む動作が難しいですよね。だから、スナップボタンのように重ね合わせるのは、やりやすい。とはいえ、私が片手で使うには、少し練習が必要そうだけど(笑)。

YKK岩田さん:障害のある方からの声をもとに開発されたのですが、例えば、自転車レースなどの競技中にサッと脱着できるというニーズもありました。ほかにも子ども服や医療・介護領域などへの展開も考えています。

布施田さん:確かに子どもでも簡単に着られそうですね。

YKK岩田さん:次は「QuickFree®(クイックフリー)」という商品を試してみてください。通常のファスナーと比べ差し込み口が3倍広くて入れやすく、ファスナーを開けるときは上部を持って左右にひっぱるだけで瞬時に開くのがポイントです。

「QuickFree®」を使用したジャケットを試着。ぱっと一瞬でファスナーがはずれる。猪狩さんもびっくり!

猪狩さん:これ、早着替えによさそう! 閉めるのが簡単な「click-TRAK®」と脱ぐのが簡単な「QuickFree®」が合わさった商品があったら最高かも(笑)。

YKK岩田さん:開発メンバーに伝えておきますね(笑)。他にもいろいろ持ってきました。こちらは「CONCEAL®(コンシール)」という商品。ファスナー部分が縫い目に沿って隠れているので、表からはファスナーが分かりにくいのが特徴です。

布施田さん:これはアパレルを展開する時に使ってみたいですね。

YKK岩田さん:例えば、ズボンのすそに「CONCEAL®」を付けておけば、足の診察のときにファスナーを開いてサッと出すことができます。普段はそこにファスナーがついていることが分かりにくく、デザイン性も損ないません。

猪狩さん:面ファスナーだと見た目が少し気になりますが、ファスナーならデザインもスマートになりますね......! 勉強になりました。

好きなモノを身に着けると、自然とテンションが上がる!

猪狩さん:布施田さんは、靴以外もプロデュースしようとされてるいるのですか?

布施田さん:そうですね。ジュエリーも片手だとなかなか付けづらいので、つくりたいと思っています。例えばこのネックレス、お気に入りだったけど、片手だと後ろでリボン結びができなくて。今は、先に結んでおいて、すぽっと被ってつけるようにしています。

猪狩さん:ひとつの工夫ですね!

布施田さん:やっぱり、自分が気に入って買っているからこそ、人と会う時や出かける時はお気に入りのアイテムを身に着けたいじゃないですか。

猪狩さん:わかります。私はヘアアレンジが好きなので、ヘアアクセサリーをつけるとテンションがあがりますね。気分を上げるためにつけるというより、好きなものを身につけると、自然とテンションが上がるんです。

布施田さん:その通りだと思います!

猪狩さん:布施田さんは、お気に入りを身に付けるために、いろんな工夫をして壁を乗り越えていますね。

布施田さん:着るのが面倒くさいと諦めちゃう人もいると思うのですが、そういう当事者の意識を変えていくことも大切だと思っているんです。私がプロデュースする靴を履いて外に出たいと思ってもらえるような、当事者の気持ちを後押しできる商品を作っていきたいですね。

猪狩さん:今日はいろいろお話をするなかで、諦めないことも大事だと思いました(笑)。今後、こんな風にブランドを展開していきたい、といった計画はありますか?

布施田さん:今はセレクトショップの運営も考えています。例えば、杖も黒や茶色じゃなくてテンションが上がるデザインのものを置いたり。障害者、介護用といった区別なく、みんなが集まって買いものを楽しめる場所にしたいです。

猪狩さん:すてきですね~! 私も行ってみたい!

布施田さん:ありがとうございます(笑)。猪狩さんが、もしブランドやショップをプロデュースすることになったら、どんなものを作りたいですか?

猪狩さん:アイドルの衣装でパニエというもこもこしたスカートがあるんです。車いすだと、後ろが盛り上がって座りづらいんですよね。だから、前だけもこもこっとしたパニエを作りたいです。

布施田さん:それ、すぐできそう!

猪狩さん:ですよね! 母が裁縫得意だから、頼んでみようかな(笑)?

好きなファッションを諦めない布施田さんと、着られなくなった服は処分していたという猪狩さん。最初は対照的かとも思えた二人も、やはり好きなものを身に付けるとテンションがあがるという部分では共通していた。何があっても諦めなければ叶う、という布施田さんの強い思いと行動力に、猪狩さんはじめその場にいたスタッフ一同感銘を受けた。

「どんな人にとっても選択肢のある日常が当たり前になるように、障害者と健常者の区別なくファッションを楽しめるような場所を作りたい!」と力強く語っていた布施田さん。これからの活躍に目が離せない。

PROFILE

布施田祥子(ふせだ・さちこ)

1975年生まれ。2011年に第一子を出産、8日目に脳出血で倒れ、左手足に麻痺障害が残る。 その後2015年に持病の潰瘍性大腸炎が悪化し大腸全摘手術を受ける。クローン病に変異し現在も治療継続中。当事者になって「障害者には選択肢がない」ということに気づき、装具に合わせやすい靴を販売する「Mana'olana(マナオラナ)」を創業。
https://manaolana.jp

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