もう男女の区別は必要ない!?──固定概念にとらわれない未来の公共トイレとは

2019/12/09

男性用、女性用、障害者や子ども連れに配慮した多機能トイレなど、どこでも目にする公共トイレ。高齢者が増え、さらにLGBTなど性についての考え方も多様なこの社会で、現在の公共トイレは十分な役割を果たしているのだろうか。

2019年11月17日、そんな公共トイレの未来を考えるイベント「Future Public Sanitation LAB~パーソナルでパブリックな公共トイレの未来~」が開催された。

トイレなど水回り製品の開発をするLIXILと、答えのない社会問題を考える「ニッポンのしゅくだいドリル」を開発した大阪人間科学大学がコラボレーションしてワークショップを実施。会場となった虎ノ門の新しい屋外スポット「新虎ヴィレッジ」には、元パラリンピアン(車いすバスケットボール)の根木慎志さんもゲストとして駆けつけた。当日は、親子連れをはじめ車いすの方、トランスジェンダーの方など、さまざまな立場の方が20名ほど集まり、開放的な空間で「トイレの未来」について話し合った。

障害者用トイレは、広くなくていい!?

コンテナ内のトイレの使いやすさを確認する元パラリンピアンの根木慎志さん

新虎ヴィレッジのプロデュースに携わった株式会社マグネット佐藤勇介さんがファシリテーターを努め、まずは会場の説明からイベントはスタート。新虎ヴィレッジに設置されたトイレは、実は根木さんがLIXILと話し合って作ったトイレだ。

車いす用のトイレというと、一般的に広いスペースをイメージする人も多いだろうが、ここのトイレはとてもコンパクト。根木さん曰く、「広く作らなくていけないというのは、実は思い込み。人によっては狭い方が使いやすい」とのこと。参加者一同、固定概念にとらわれて気づいていなかった事実に驚いた。

新虎ヴィレッジのトイレに意見が反映された喜びを、笑顔で語る根木さん

根木さんは「障害があると、これはできない、あれもできない、と想像だけで考えてしまう。だからまずは固定概念を壊すことが必要。それによって、新しいトイレのアイデアが浮かぶはず」と話してくれた。

トイレの歴史を学び、未来を考えよう!

家のトイレとは違う状況で使われる公共トイレだからこその、歴史や変遷について学んだ

続いて、トイレの未来を考えるワークショップへ。みんなで考える前に、まずは公共トイレの歴史をおさらい。LIXILの方が登壇し、公共トイレが今のような形になった歴史や経緯について教えてくれた。

公共トイレの歴史が始まったのは、1879年。初めて設置されたのは東京...ではなく、横浜だったそう。

昔の公共トイレといえば、汚い、臭いというイメージが強かったが、それが変わってきたのが1980年代後半。百貨店の松屋銀座が、売り場ごとのコンセプトに合わせてトイレを改装したのが始まりとのこと。今、デパートにあるきれいで明るいトイレは、松屋の取り組みがあったからこそ生まれた。

車いす用のトイレは40年前の1980年頃にすでにあったとのこと。ひょうたん型で前後どちらからも座れるという変わったデザインだったとか。ただ当時は、設置したものの使われない、ホームレスや若い人のたまり場になるといった問題があり、わざわざカギを借りに行かないと使えないことも多く、不便だったという。

それが1994年のハートビル法、2006年のバリアフリー法などの成立により、法的支援が進んだことで変化。トイレの多機能化が進んだ。

あまり知られていない公共トイレの歴史に、参加者も真剣に聞き入っていた

最近では、その場に1つしかない多機能トイレに入りづらいという問題を解決すべく、通常の個室にもオストメイト用の流しをつけたり、ベビーベッドをつけたりするなど、個室トイレの機能分散が進んでいるそうだ。

これらの流れを踏まえ、みんなで公共トイレの未来について考えるべく、参加者みんなで「ニッポンのしゅくだいドリル」に挑戦した。

「ニッポンのしゅくだいドリル」の使い方を説明する、大阪人間科学大学の学生たち

「ニッポンのしゅくだいドリル」とは、答えのない社会課題について考えるためのドリルで、大阪人間科学大学によって開発されたツール。今回のイベントに合わせて、特別に公共トイレについての悩みが書かれたバージョンが用意された。

トイレのことを考えるためのワークシート(左)と、考えるときのヒントが書かれた下敷き(右)

しゅくだいドリルに記載された悩みとは、体は女の子だけど、心は男の子という高校生のAさんが、男女どちらのトイレを使うべきか悩んでおり、誰にも相談できないという問題。Aさんが抱える悩みから、誰でも気軽に使えるトイレをまずは個々で考えた。

スムーズに筆が進む人もいれば、なかなか書き出せない人。子どもも大人も真剣に取り組んでいた。

その後、3チームに分かれて、チームごとに自分たちが考えたアイデアを発表。自分にない視点の発想に、質問が飛んだり、「おお」と驚きの声が漏れたりすることも。

大人も子どもも分け隔てなく、意見を交換!

あるお子さんは、移動式のクルマトイレを発案。多機能トイレが1つしかない問題に対して、「自分だけのトイレがあって、呼べばトイレが自分の場所に来てくれたらいい」と提案。

また、あるチームは、「入り口が男女1つずつなのが問題では」と考え、男女の区別なく、いくつも入り口がある形状のアイデアを考案。「それならば、施設の真ん中にトイレがあるほうがいいかも」という意見に対して、「一ヵ所にまとめることで、数を増やすこともできるはず」と。アイデアがアイデアを呼び、理想に近づいていった。

各チームの意見がまとまってきたら、発表用シートを作成。どのチームも子どもと大人が一緒に協力して、みんなで考えた未来のトイレを描いていった。

子どもたちも一緒に発表の準備!みんな、真剣だ

みんなで考えた未来の公共トイレとは?

1時間近くにおよんだワークショップの集大成として、最後にそれぞれのチームの成果を発表。特にみんなの注目を集めたのは、「普通のトイレ」というアイデアを発表したチーム。

動物、ユーレイ、赤ちゃん、車いす......どんな人も(人じゃなくても)入れる新しい「普通のトイレ」

このトイレのポイントは3つ。入り口はさまざまで、男女の区別はなく、子ども連れや車いすなど、誰でも自由に利用することができる。さらに、細かい機能に分かれたトイレが複数用意されているため、自分にぴったりのトイレが選べること。そして、トイレあるあるとも言える、いつ出てくるのかわからないモヤモヤを解消する「もう終わるよ」「まだかかるよ」ボタンを設置するというユニークなアイデアが盛り込まれていた。

男女別で多機能トイレが1つという概念ではなく、男女混合、障害者も子ども連れも動物もユーレイも......どんな人でも使えるという新しい「普通」を問いかける夢たっぷりの公共トイレだ。

他の2チームの発表も、ユニークでワクワクするようなアイデアが満載。固定概念が取り払われたトイレが提案されていた。

入口から出口までワンウェイのトイレ。どの個室に入るのか気にしなくてOKというアイデア
こちらはワンフロアまるごとトイレ!見たことがないトイレの姿

どのチームにも共通していたのが、男女、多機能トイレの区別がなくなっていること。性別によってトイレを分けるという概念がなくなる未来を予感させる結果だった。ファシリテーターの佐藤さんも「LIXILさんと一緒にやれば、この中のアイデアは近いうちに実現できますね!」と驚きの声を上げていた。

互いの違いを認め合うことで生まれる新しい価値観

多種多様なアイデアが集まった発表を終え、根木さんからは「100人いれば100通りのアイデアがある。世の中で多様性が注目されるようになって、人間を男女の2種類に分けること自体に無理がでてきた。これからは互いの違いを認めることで、トイレにも新しくて楽しいものができてくると思う」と、新しい価値観の創造に期待する思いがあふれた。

回転ずしのように「回るトイレ」や「足湯のあるトイレ」など楽しいアイデアを出していた根木さん

一見、難しい問題でも、これまでの固定概念を取り除けば、実は大した問題ではなくなると気づかせてくれた今回のイベント。印象的だったのは、最初は黙々とひとりで問題に取り組んでいるときは、悩みながら考えていた人たちが、チームのみんなでアイデアを交わし出したとたん、次々とユニークなアイデアが出てきたこと。

会話をすることで、互いの考えの違いに気づき、それが刺激になって新しいものが生まれていく。公共トイレというパーソナルでパブリックな場所だからこそ、個々の価値観の違いを認め合うことで、新しいものにアップデートできる。そのためにはまず自分の常識もアップデートする必要があるのかもしれない。

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