手話でポーズを教えてくれる──英国で始まった、聴覚障害者のためのオンライン「サインヨガ」

2020/11/10

長期間の在宅リモートワーク生活により、体を動かす時間が減ったという方は多いのではないだろうか。そんな時におすすめなのがヨガだ。場所も取らず、マットさえあればすぐに実践できる。

「息を吸って、吐いて、右の手を伸ばして...... 」インストラクターのガイドに沿って体を動かしているうちに、深い呼吸ができ、気持ちもスッキリしてくる。しかし、もしこのインストラクターの声が聞こえなかったらどうだろう。

たとえば、体を前屈させるような「ダウンドッグのポーズ」。耳が聞こえる人であれば、声さえ聞こえれば次にどうすればいいかが分かるが、口元を見て言葉を読み取る聴覚障害者の場合、インストラクターの顔が見えなければ、次にどうすればいいのか分からなくなってしまう。

イギリスでは、そんな聴覚障害者のためのオンライン「サイン(手話)ヨガ」クラスが開講した。始めたのは、ヨガインストラクターであり、手話通訳士のベサニー・マザーさん。2019年に英国のサインヨガの第一人者となった彼女は、外出自粛中を健康に過ごせるように、無料で「音声のない」ヨガ動画を公開している。

マザーさん自身は音が聞こえるが、聴覚障害者の両親の元に生まれ、最初に覚えた言語が手話だったという。ヨガインストラクターの資格を持っていたことから、聴覚障害を持つ友人や手話通訳士の仲間にヨガを教えて欲しいと頼まれたのがサインヨガクラスをはじめるきっかけとなった。

「ヨガは精神的に健康になれるものです。気分が落ち込んでいたり、自信を失っていたり、心配事があったりするときにはとても助けになります」とマザーさん。

イギリスの聴覚障害者を対象とした調査では、精神面での問題を抱える人の割合が一般的には25%のところ、聴覚障害者の場合、50%にもなることが明らかになった。サインヨガを生活に取り入れることで、こうした問題の改善にもつながる可能性がある。

マザーさんは、通常のヨガスクールでもっと聴覚障害者の受け入れがすすむよう、ヨガインストラクターを対象にした講座も開催している。目指すのは、通常行っているレッスンに影響を与えずに、聴覚障害者も参加できるスタイルに変えていくこと。これができれば、耳が聞こえる人も聞こえない人も一緒にヨガを楽しめる「インクルーシブなヨガ」に一歩近づくことができる。

日本でも手話ヨガは存在するが、イギリスでオンラインクラスが始まったことは画期的だ。当面、精神的にもストレスフルな時期が続きそうな今。オンラインでのサインヨガが、耳が聞こえない、聞こえにくい人々の心と身体の癒しにつながることを期待したい。

参考サイト:Sign Yoga

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