究極の解決策は「一緒に酒を飲むこと」──千葉県鴨川市のイベントで"心のバリアフリー"を考える

2019/12/27

コトナルでは、パラスポーツや障害者の環境をポジティブに変えていくアクションを紹介しながら、みんなができるアクションも呼びかけている。今回DOマンこと、コトナル編集長がやってきたのは、台風15号の被災地・鴨川市。クリスマス直前の週末である12月22日(日)に開催された「ウェルKAMO X'MAS GAMES 2019」に参加した。

遊びを通してパラスポーツを体験「ウェルKAMO X'MAS GAMES 2019」

オレの名前は、DOマン(ドゥーマン)。普段は、コトナルの編集長をしているサラリーマンだ。コトナルで呼びかけているアクションを自ら実践すべく、千葉県鴨川市のイベント「ウェルKAMO X'MAS GAMES 2019」へやってきた。

このイベントを企画したのは、主催の一般社団法人ウェルネスポーツ鴨川で専務理事をつとめる岡野大和さんだ。「パラスポーツを全面に出すと自分事として捉えてもらえなくなる。クリスマス直前というところに目をつけて、パーティーのゲーム感覚で誰でも気軽に体験してもらう企画にした」と言う。ではなぜこの企画をやろうと思ったのだろうか?

「ウェルKAMO X'MAS GAMES 2019」を企画した岡野さん(左)とオレ

岡野さん:個人的な話なのですが、小児まひによって重度の障害がある叔母がおり、幼い頃から日常的に接してきました。そんな経験もあって障害者やお年寄りを"弱者"ととらえるような、いわゆる"「かわいそう」から始まる福祉"に対して以前から疑問を持っていました。確かに障害があることはたいへんなことだけど、誤解を恐れずに言うならば、障害以外はなんら自分と変わらない一人の人間なんです。そこで、今回、自然体でパラスポーツや障害者の方に触れ合うような企画にしました。

DOマン:よく分かります。

岡野さん:鴨川市はもともと、パラスポーツ競技の合宿地にもなっていて、車いす陸上や車いすバスケットボール、最近ではブラインドサッカー女子日本代表の合宿も行われています。鴨川市にとってはパラスポーツは突然出てきたものではなく、歴史的にも裏打ちされたものですから、他のスポーツと同じく、鴨川市はパラスポーツの振興に力を入れていこうという思いもあります。

DOマン:「コトナル」も、パラスポーツや障害者との壁をとっぱらうことが目的で、"こっち"と"あっち"のような考え方をなくそうと思ってやっています。触れ合う機会を増やす方法が、われわれの場合は記事や動画を通してですが、岡野さんの企画したこのイベントと、方法は違えど考え方は一緒だと思いました。

岡野さん:ストイックに真剣に、というのはあまり好きじゃないんですよね(笑)。

DOマン:楽しくないと伝わらないですからね。

岡野さん:ここで体験した子どもたちが学校に行って「楽しかった!」と言ってもらえて、次回開催時に友達をつれて来てもらえたらうれしいですね。親子や祖父母と孫で訪れてもらえれば、結果的には大人にとっても自分事に変えることができるのではないかと思っています。

DOマン:人間、長生きすればするほど車いす生活になる確率って高いと思うんですよね。そのとき初めて車いすを体験するより、こういう機会に遊びの中で知ることができれば受け止め方も変わると思いました。

パラスポーツをアレンジしたものも! オリジナルゲームにチャレンジ

そんな想いが詰まった会場には、6種のゲームが用意されていた。どれも老若男女、関係なく楽しめるものばかり。

【ゲーム その1:プレゼントスロー】まずはウォーミングアップとして、肉体的負担が軽いゲームから!

ソリの装飾がされた車いすに乗って、煙突型のゴールにボールを入れるゲーム。普段なかなか車いすに乗ることがない人たちにも、遊びを通じて座ってもらうことが目的だと言う。ゲームを考えたのは城西国際大学の学生さんたちだ。

暫定1位獲得も、このサンタさんに負けていることが発覚......。

安定しないバケツにゴールするというのはなかなか難しい。結果は10点。いや、まだ最初のプレイだから、体が温まっていないだけ!? 他のお客さんがまだチャレンジしていなかったので暫定1位にはなれたが、あとでこっそり再チャレンジしよう......。

【ゲーム その2:チェアライダー】隣のボッチャブースにいた女子部JAPANのメンバーにも参加してもらった。

こちらは、車いすバスケ用の車いすを使った障害物競走。地方創生をメインに活動する千葉大学発のローカルベンチャー・ミライノラボが運営していた。

レースでは最初にパン食い競走のようにお菓子を口でくわえた後、コーンの端まで走った後、ひとつひとつのコーンを回りながら戻る。人工芝ということもあり、スムーズに車いすがこげないので、なかなか大変なゲームだ。

マスクの口の部分が小さく、まさかの「お菓子がくわえられない」問題発生!
お菓子をとるのは手間取ったがナイスなチェアワークで逆転勝利!!

最初で若干出遅れたが、結果は圧勝! 54秒36と好タイムでゴール! と、喜んだのもつかの間。「もっと早いタイムをたたき出した人がいますよ」と言われ、再度勝負を挑むことに。ここは、暫定1位を取るまで帰ることはできない。

再びお菓子のところで苦戦......。

対戦相手は先ほど体験した「プレゼントスロー」ブースを担当していた大学生サンタさん。再び、お菓子をくわえるところで苦戦するも、途中で逆転。結果は44秒74で勝利&暫定1位も獲得! オレの実力を鴨川市のみなさんに見せつけることができたぜ。

【ゲーム その3:クリスマスボッチャ】ボッチャは白いボールに自分のチームのボールを寄せていくゲーム。

次にチャレンジしたのは、パラスポーツのひとつであるボッチャ。老若男女が楽しめるゲームとして、パラスポーツの域を超えて最近は人気になっている。「ミニコートとフルサイズのコートがあります」といわれたので、迷わずフルサイズのコートを選択。真剣勝負だ!

対戦相手はこのブースを運営している女子部JAPANのメンバー。オレと一緒にチームを組んでくれたのは、女子部JAPANの部長・こばなみさんだ。昨年10月にコトナルと共同でボッチャ体験イベントを開催したりと、今まで何度も一緒にボッチャを経験してきたので、ここで負けるわけにはいかない。

女子部JAPANチームvsDOマン&こばなみチームの対決!

と、意気込んで始めたのに、1セット目は女子部JAPANチームに取られてしまった。なんたる失態。しかし、これでオレの闘魂に火がついた。2セット目はオレの大活躍により、2点差を逆転!最終的に女子部JAPANチームに勝利した。

【ゲーム その4:ブラインドサッカー】分かりづらいが、マスクの上からアイマスクを付けているのだ!

過去にも経験したことがあるブラインドサッカーのブースにも訪れた。まずは「アイマスク」をつけた状態で、まっすぐ歩いたり、ボールを蹴ったりする練習だ。視界を失うことの恐怖は、実際に体験してみないとなかなか分からない。

ボールから鳴る音を頼りに駒崎選手とボールの奪い合い。

次は、駒崎広幸選手との1on1対決! 相手がブラインドサッカーの選手だからといって、気持ちだけは負けるわけにはいかない。しかし、やはり難しい......。

最後は見事にゴール! 視界がない状態でのプレイが続くと途中で心が折れそうになるが、駒崎選手からは「ナイスチャレンジ!」とのお褒めの言葉をいただいた。ブラインドサッカー選手のすごさを、身をもって体感できた。

【ゲーム その5:オルカと遊ぼう!】風船を使ったサッカーに挑戦だ!

こちらは千葉県鴨川市を中心に活動する女子サッカークラブチーム「オルカ鴨川FC」のメンバーと一緒に遊ぶブースだ。パラスポーツではないけれど、サッカーに親しめるよう、風船を使ったさまざまなゲームを用意していた。

まずは両足、片足、もも、頭とすべてのリフティングをクリア! オルカのメンバーも盛り上げてくれるので、なんなくクリアできた。続いてチャレンジしたのが、ドリブルだ。

ルールをも変える男、DOマンとして、新しい伝説を鴨川に残すことができた。

25秒以内というルールだったが、余裕の16秒でクリア。大人なら20秒以内でいけるのではないかと提案したところ、新ルールとして採用してくれた。

考えてみれば、サッカーは基本的に手は使ってはいけないスポーツ。発想を変えれば、これもパラスポーツと言えるのかもしれない。そう思うと、一般のスポーツとパラスポーツの垣根は実はほとんどないのかもしれない。

【ゲーム その6:スポーツテスト】バスケ部時代に何度もやった練習だから余裕だろうと思っていたが......。

三鷹のスポーツジム・OneSelFさんが運営していたのはスポーツテストのブース。こちらではアジリティテスト(敏捷性を測るテスト)を受けた。

結果は9秒03......大人としては「まあまあ」とのこと。やはり現役時代のようにはいかないのか。個人的には満足したから良しとしよう。

「おもしろトークショー」では声かけの重要性を知る

切手で描かれたパラテコンドーのモザイクアートをバックに、笑いが絶えないトークショーに参戦。

最後に会場で行われたのが「おもしろトークショー」。フリーアナウンサー久下真以子さんが進行を務め、パラスポーツや障害について、笑いを交えながら話し合った。

オレは以前車いすで東京の街中を移動した時に感じたことを話した。

DOマン:以前車いすでの移動を体験したとき、視覚障害者の方が使う点字ブロックのでこぼこに車輪が挟まって動けなくなるトラブルを経験しました。ふだんなら緩いと感じる坂やちょっとしたでこぼこでも車いすで動くのは大変。街の中にはバリアがいっぱいあると、体験することで知ることができました。

オレのトークに続けて、鴨川市在住のチェアライダー・佐藤翔太さんは、自身が車いす生活をするうえで、ハード面とハート面、両面が必要だという思いを語ってくれた。

全国脊髄損傷者連合会千葉県支部で相談支援をしている佐藤さん。

佐藤さん:ハード面を変えるのは難しいけど、ハートを変えるのは自分次第ですぐできる。アクションするきっかけが今日のイベントです。まずは声をかけてみてください。できることについては断ることもあるけど(笑)、心折れずに、どんどん障害者に声をかけて欲しいですね。

にぎやかな関西弁で軽快なトークを繰り広げていたのは、2012年ロンドンパラリンピックの車いすマラソン日本代表で、一般社団法人日本パラ陸上競技連盟副理事長の花岡伸和さんだ。アメリカに行ったとき、多くの人に「May I help you?」と声をかけられ、「No Thanks」と断っても、何人にも声をかけられる経験を踏まえて、日本の状況を分析していた。

花岡さんは2004年アテネパラリンピックの車いすマラソンで日本人最高位の6位入賞を果たした。

花岡さん:障害者を不幸だと勝手に決めているけど、ヘレン・ケラーも不便だけど不幸じゃないと言っている。不幸だと思っている人に声かけをして断られるから心が折れる。まずは不幸だと思っている壁を取り払うことが必要だと思います。まあ、究極の解決策は「一緒に酒を飲むこと」だと思いますよ(笑)。

ブラインドマラソン伴走者(ガイドランナー)として1996年アトランタパラリンピックで金メダルを獲得。現在は日本ブラインドマラソン協会理事、そしてランニングコーチとして活躍する安田享平さん。視覚障害者と多く接してきた彼から出た提言も、声をかけることの必要性だ。

ブラインドマラソンの選手だけでなく、市民ランナーへの指導にも定評がある安田さん。

安田さん:ブラインドマラソン協会では、月に1回代々木公園で市民ランナーを招いた練習会をしています。障害があると運動不足になりがち。表に出て歩く、といったことを一緒にしないかと声をかけているのです。

進行役を務めていた久下さんも、普段からパラアスリートや障害のある人と多く飲み交わしているという。その中で感じたのは、車いすも目の障害も個性だということ。

日本一パラスポーツを語れる女子アナを目指し、取材に取り組んでいる久下さん。

久下さん:今日は同じ空間でこうやって笑い合えてよかったです。いい空気ができていると思いました!

DOマンの学び
──体験できる機会をつくる、増やす

一度にいくつものゲームを体験したせいで、途中でバテ気味に......情けない。しかし鴨川市の人たちとゲームを通して交流できた貴重な機会だった。

トークショーでは、声かけの重要性が何度も語られていた。声をかけて断られても心が折れない、何度でも声かけすることを普通な状態にするためには、障害のある方に対して勝手に思い込んでいるイメージや心のバリアを取り払う必要があると改めて感じた。

だからこそ、今回のようにゲーム感覚でパラスポーツと触れ合える機会を作ることは有意義に感じた。特にパラスポーツは、「健常者と障害者」をつなぐだけでなく、「高齢者と子ども」といった世代をも超えて一緒に楽しめるものが多い。

オレは社内にいる車いすの社員と、一緒に働いたりお酒を飲んだりする中で、障害者に対するイメージがフラットなものに変化していったが、実は街を見渡せば、声をかけたり触れ合える場面はたくさんある。ただ勇気が出ない。それもわかる。だからこそ、オレたちにできることは、そういった機会やきっかけを、メディアを通して増やすことなのかなと思う。

街中でももっと自然に声かけができるように、そのためにも、オレがまず積極的に声をかけてみようと思った。

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