あなたの想いと寄付で、パラスポーツや障害のある人をサポートしよう。 今回紹介するのは、視覚に障害のある選手たちが激しいバトルを見せるブラインドサッカー。この競技の知られざる魅力や今後の可能性について、日本ブラインドサッカー協会や日本代表チームのキーマンたちに話を聞いた。
ぶつかり合う選手たちの度胸と華麗なワザが見逃せない。
監督、ガイド、選手同士の絶え間ない掛け声に従って、フィールドプレーヤーが強烈なシュートを放つ。初めての観戦なら、きっとそのスピードや迫力に驚くはずだ。ゴールキーパー以外のプレーヤーは視力の差をなくすため、全員、アイマスクを着用。すべてのプレーは監督、ガイド(ゴール裏から声で指示を出す人)、ゴールキーパー、選手同士の声、そして、ボールから響く音を頼りに行われる。時には全力疾走のドリブルが敢行され、ディフェンダーと真っ向からぶつかることも。サイドライン際のフェンスで敵味方が入り乱れて激しくボールを奪い合うシーンもブラインドサッカーならではだ。
2016年より日本代表チームの主将を務める川村怜選手は、この競技の見どころについてこう説明した。「声のコミュニケーションだけでサッカーが成立することに驚く人も多いんじゃないでしょうか。ぶつかり合いもあって球際が激しいので、純粋に"観るスポーツ"としてもおもしろいと思います。激しいということは、反面、危険な側面もあって、僕自身、今でも怖い気持ちはゼロではありません。だからこそ、ピッチには覚悟を持って立っています。それは、純粋にサッカーができるという喜びを感じたいから。選手たちのそういう姿勢にも注目してほしいですね」。
通常のサッカーと同じように世界の舞台ではブラジル、アルゼンチンなどが強豪国。日本国内においてブラインドサッカーが始動したのは2001年頃からと、まだ歴史は浅い。それでも2020年のパラリンピックに向けて方針は定まっていると、日本代表チームの高田敏志監督は語る。「無駄なボールロストや連携ミスがまだまだ多い。でも走力面で見れば、日本は世界でもトップクラスなんです。疲れても、賢く走る方法を我々は既に知っている。この強みをさらに活かした上で、個々のプレーの精度を上げていきたい。こうしたサッカーが機能すれば、強豪国にもきっと勝てるようになる」。
強いチームとの対戦を経て、少しづつ洗練の度合いを高めつつある日本チーム。川村主将によれば、王国ブラジルに勝つ日はそう遠くないかもしれないという。まさにこれからの2年間は、日本代表の将来に大きな影響を与える重要な期間。より多くのファンの期待や応援が、チームの成長に不可欠な力となってくるはずだ。
ピッチの中には「自由」がある。それが最大のモチベーション
海外ではブラインドサッカーを生業としてプレーする選手が多数いる一方、日本にはプロ選手がまだいない。こうした環境の違いは当然、練習時間や機会の差となっていく。しかも、盲学校で学生たちが出会うスポーツはフロアバレーやゴールボールといった競技が多く、小さい頃からブラインドサッカーに親しむ文化はこの国に根付いていない。つまりこの競技において、日本の戦いは、まだはじまったばかりと言えそうだ。日本ブランドサッカー協会事業戦略部長の山本康太さんはこう話す。「とはいえ、口コミでプレーヤーが少しづつ増えてきているのは良い傾向です。2003年には全国に4チームしかなかったんですが、今では21チームにまでなった。年2回、サマーキャンプと題して、親子でブラインドサッカーに触れられる機会も設けていて、この競技の魅力を伝える場として機能しているんです」。
激しい接触プレーがあり、危険が伴うことからかつては敬遠され気味だったものの、現在では選手が増加傾向に。その理由はひとえに「ピッチの中に自由がある」からだと山本部長は言う。「視覚障害者のためのスポーツは動きに制限があるものが多いんです。でもブラインドサッカーだけは激しいコンタクトプレーがある反面、選手たちの自由度がものすごくある。どこに動いてもいいという自由さを魅力に感じて、この競技をはじめる子どもたちも多いんです」。
日本代表を高みへと導くために、強豪と戦う機会を。
世界の強豪との差は確かに小さくない。しかし、その差を詰めていくためのアプローチ法はわかっていると山本部長は力強く語った。「今、必要なのは、強豪と戦う機会を増やすこと。海外遠征の回数をどんどん増やしていければ、日本代表の経験値は確実にアップし、強くなっていくでしょう。寄付が集まればまずはチームが海外で戦える機会を増やすために使っていきたいんです」。
さらには、次世代の育成も大きな課題。国内で小さな子どもたちがプレーできる機会を増やすことで、裾野をどんどん広げていきたいとのこと。競技を見たり、少しでも体験する機会があれば、おのずと競技者は増えていくだけの魅力がブラインドサッカーにはあると山本部長は話す。「選手が増えてほしいのと同時に、運営に関わるボランティアの方々もまだまだ必要です。サイドライン際にセットするフェンスは42枚あるんですが、これを運ぶだけでも大変な作業。試合を開催するには、フェンスを運んだりセットしたりする人手も常に必要なんです。もちろん指導者の数も足りていません。だから、この競技に触れて、その魅力を感じてくれる人が増えることを願っています」。
日本サッカー協会やJリーグクラブの協力も得ながら、少しづつ熱気を帯びてきているブラインドサッカーの世界。20年のパラリンピックを控えた今、日本の劇的な進化を見逃すのはもったいない話だ。
特定非営利活動法人 日本ブラインドサッカー協会
日本ブライドサッカー協会は、「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」をビジョンに掲げ、ブラインドサッカーおよびロービジョンフットサルの強化・普及を推進するほか、ダイバーシティ啓発活動などの普及活動を行っている。ブラインドサッカー日本代表チームは、2020年東京オリンピック・パラリンピックでのメダル獲得を目指す。
http://www.b-soccer.jp/